オンライン教育コンテンツってなぁに?
みなさん、こんにちは。
UTokyo OE(UTokyo Online Education)スタッフです。
さて、「東京大学が公開するオンライン教育コンテンツ = UTokyo Online Educationのコンテンツを横断検索することができる」というのが、当サイトの役割です。
しかし、そもそもオンライン教育コンテンツとはどういうものなのでしょうか?
まず、皆さんも今やすっかり馴染んだ「オンライン教育」。
2020年の新型コロナウイルス感染拡大を受けて、世界中で急速に普及しました。
テレビ会議システムを用いたオンライン授業、録画されたオンデマンド授業などは、その一例です。
同じ教室にいなくても、遠隔で、講義資料の共有やディスカッションが行われます。
しかし、今ほどの認知度や重要性はなかったものの、「遠隔教育」の歴史は、実は古いのです。
通信教育やラジオ教育などを使って遠くに教育を届ける工夫は、19世紀ごろから存在していました。
そして、ICT技術を活用した教育のオンライン化を発展させようという運動も、1990年代にインターネットが始まって以降、ずっと存在しています。
特に2000年代以降、欧米を中心に、様々な試みが活発に行われてきました。その代表例として、Moodleなどの学習管理システム(LMS)やオンライン教材の開発・利用が挙げられます。
さて、このコラムでは、そのような取り組みの中でも、UTokyo Online Educaitionのように、誰もが自由にアクセス・利用できる「オープン教育資源(OER:Open Education Resources)」を紹介したいと思います。
(※ OERとそれを取り巻く環境は社会情勢や技術とともに変容を続けており、特に提供元の方針・プラットフォームやサービスの形態・Webサイトのビジュアルなどは執筆時と異なっている可能性があります。必要に応じてご自身で最新情報をご確認ください。)
Open Educational Resources(OER)とは?
OERの定義
UNESCO(ユネスコ、国際連合教育科学文化機関)は、「Open Educational Resources」(以下:OER)を次のように定義しています。
- オープン教育資源(OER)とは、パブリック・ドメインとなった、又はオープンライセンスの下で公開されている著作権のあるあらゆる形式及び媒体の学習、教育及び研究の資料であって、他の者による無料のアクセス、再使用、別の目的のための再利用、改訂及び再配布を認めるものをいう。
- オープンライセンスとは、著作権者の知的所有権を尊重し、並びに公衆に教材を再使用し、別の目的のために再利用し、改訂し、及び再配布し、並びに教材にアクセスする権利を付与する許可を与えるライセンスをいう。
- 情報通信技術(ICT)は、OERへの効果的、衡平な及び包摂的なアクセス並びにOERの使用、改訂及び再配布にとって多大な可能性を提供する。ICTは、OERが全ての者(障害者及び疎外された集団又は不利な立場にある集団の個人を含む。)にとって、時及び場所のいかんを問わずアクセス可能なものとなる可能性をもたらし得る。ICTは、個々の学習者のニーズを満たし、及びジェンダー平等を効果的に促進することを助長し、並びに革新的な教育学的、教訓的、及び方法論的な取組を奨励し得る。
- この勧告における学校部門、ノンフォーマル部門及び(適当な場合には)インフォーマル部門における利害関係者には、教員、教育者、学習者、政府機関、父母、教育の提供者及び教育機関、教育支援要員、教員研修指導者、教育政策立案者、文化施設(図書館、公文書館、博物館等)及びその利用者、情報通信技術(ICT)基盤の提供者、研究者、研究機関、市民社会組織(職業団体及び学生団体を含む。)、出版業者、公的及び民間部門、政府間機関、著作権者及び著作者、メディア団体及び放送団体並びに資金供与団体を含む。
引用:UNESCO「Recommendation on Open Educational Resources (OER)|オープン教育資源(OER)に関する勧告(文部科学省による仮訳)」より「1. Definition and Scope|1 定義及び適用範囲」(2019年)
つまりOERってどういうもの?
ちょっと、ややこしいですね。
簡単にまとめると、OERとは、「より多くの人が無償でアクセス・利用・改変して再利用もできるように共有された教育資源」のことをさします。
ここでいう「教育資源」とは、一般的に想起される教科書や参考書だけでなく、講義そのものの動画・シラバス・スライド資料・研究結果のデータなど、教育・学習の材料となるあらゆるものが該当します。
OERが出現する前は、講義や、そこで配布される講義資料は、多くの場合、特定機関の構成員に限定的に共有されることが前提となっていました。
分かりやすく言うと、例えば、「東京大学のA教授が開講している授業を受けることや、教室で配布するプリントを手に入れることができるのは、東京大学に所属してA教授の授業を履修している人だけ」というのが当たり前でした。
しかし、A教授が、それらの資料をOERとしてWeb上で一般公開したら……?
他大学の学生でも、また、たとえ子どもや社会人でも、入院治療中の人でも、遠く離れた外国にいる人でも、誰もが(インターネット環境さえあれば)いつでも無償で閲覧することが可能となるのです。
また、OERは、ただ受講者として閲覧して学習するだけでなく、基本的には改訂や再配布が認められているため、自分の発表学習の一部に引用したり、他の教員が自分の授業の教材の一部として活用することも可能です。
このように、世界中に向けて「知」を開放することは、収入・年齢・障害の有無・学習環境など、様々な要因で教育へのアクセスが困難な人々に学習のチャンスを提供する役割を果たしています。
それだけではなく、さらに、持続的に多くの人々に「知」が共有され、それらが循環することによって、新たな「知」を生むことにも繋がっていくでしょう。
そして、UNESCOが4番目の項目で言及しているように、これらの教育資源を広く世界に行き渡らせる手段として、Webサイトや学習管理システム(LMS)などのプラットフォームはもちろん、インターネットなどの通信技術の存在が欠かせません。
オンライン教育の需要が世界的に高まった昨今、OERは、ますますの普及と発展が期待される分野といえるでしょう。
大学がOERを提供する理由とは?
歴史的な経緯
高等教育機関の1つである大学がOERを公開する活動は、2000年前後から始まりました。
特に、2001年にマサチューセッツ工科大学(以下MITと呼ぶ)が「MIT OpenCourseWare」を始めたことが、大きなきっかけとなりました。
MITで開講されているコースの講義動画・講義資料・講義情報などを、Webサイトで大々的に公開し始めたのです。
90年代にコンピューターが普及し始めた頃から、教員や研究者が、個人でブログやWebサイトを作成して、自作の教材を無償公開することは一般的に行われていました。
OCW(Open Course Ware)は、「大学が主体となって、公式に教材提供のプラットフォームを用意する」という点で大変画期的でした。
このような取り組みが、アメリカ合衆国、やがては世界中に広まりました。
日本では、2005年以降、いくつかの主要な大学が賛同して、実施を開始しました。(参照:https://oejapan.org/history)
どんな目的や意義があるの?
「学費を払って学校に所属している学生」以外の人たちに授業を見せることについては、当然、疑問の声が上がったり、議論になったりすることがあります。
OERの公開は、どちかというと、実利的な面よりも、大学の指針やミッションなどと照らして、「知の開放と共有」「教育格差の是正」など、高い理念の側面から発足しています。
MITでは、大学のミッションと合致していたため、OCWの立ち上げは自然に受け入れられたそうです。
大学には、授業料を支払う学生に高度な教育を施して優秀な卒業生を社会に送り出すという機能があります。
しかし、大学は、学びを提供する場であると同時に、研究機関でもあり、資料・人材の宝庫でもあります。
そのような場から、結集された高度な知を機関の外に開放・共有する)という新しい形で、社会に貢献する、と考えることもできるでしょう。
そこで多くの場合、これらの取り組みは、基本的には非営利で運営されています。
(一部、持続的な運営に必要な資金を、寄附金や少額の収益によって得ている事業や大学もあります。)
東大のオンライン教育コンテンツを紹介します
東京大学もまた、積極的にOERを提供しています。
当サイトで横断検索できる3つの教育コンテンツ、
- UTokyo OCW
- 東大TV
- UTokyo MOOC
について、それぞれのアクセス方法や特色を紹介します。
UTokyo OCW
そもそも、OCWとは何でしょうか?
OCWは、Open Course Ware(オープンコースウェア)の略称。
大学や大学院が提供する講義と、関連する情報や資料をインターネット上で無償で公開する活動です。
多くは、講義動画やスライドなどの授業資料を閲覧できるWebサイトの形を取ります。
オープンエデュケーションコンソーシアムでは「a free and open digital publication of high quality college and university‐level educational materials.(大学レベルの上質な教材をデジタルで無償公開したもの)」と定義されており、日本ではオープンエデュケーション・ジャパンが「大学や大学院などの高等教育機関で正規に提供された教材」と定義しています。
先の章でも紹介したように、米国のMITで最初に考案されて始まった取り組みであり、現在では世界中の様々な大学がOCWを提供しています。
日本国内では、現在、10を超える主要な大学がオープンエデュケーション・ジャパン(旧・日本オープンコースウェアコンソーシアム)に加盟しています。(2023年現在)
インターネット上で、「興味のある大学の名前」+「opencourseware/ocw」を入力して検索してみると良いでしょう。
オープンエデュケーション・ジャパンに加盟していない大学でもOCWまたはそれに近い形で、講義動画の公開を実施しているところがあるため、検索してみてください。
では、ここで東京大学のOCWを紹介します。
UTokyo OCW:https://ocw.u-tokyo.ac.jp/about/
このコラムを読んでいる方々の中には、すでにご覧くださっている方もたくさんいらっしゃるかもしれません。
東京大学もオープンエデュケーション・ジャパンに加盟しており、日本国内では比較的早い時期からOCWの公開をスタートさせました。
理系・文系を問わず、幅広い分野のコンテンツを豊かに有しています。
UTokyo OCWは、完全にオープンなWebサイトの形を取っています。
したがって、閲覧するためには、アカウントを作成して会員登録する必要はなく、ログインを求められることはありません。
もちろん視聴料を払う必要もありません。
全てのページ・全ての動画や資料に、自由にアクセスすることができます。
東京大学の正規の講義(当該教育機関に籍を置く学生が単位を取得するために履修するコース)を公開しています。
多くのコースは10回〜13回の授業で構成されています。
学期を通して1つの事柄を学ぶ性質のコースもあれば、オムニバス形式のものもあります。
1本の動画の長さは90〜120分程度と、比較的長めです。
専門性の高いものから、分かりやすい入門編のようなものまで、普段、現役東大生が受講している授業とほぼ同じ内容を存分に楽しむことができます。
(※著作権や肖像権保護の観点から、動画や資料には部分的な削除などの編集を施しています、ご了承ください。)
講義を検索する際は、分野ごと・講師ごと・人気順などの分類に従って、条件を絞って探すことができます。
また、「だいふくちゃん通信」では、東京大学の学生が執筆した講義の紹介ブログ記事を読むことができます。
視聴する動画を選ぶ際など、ぜひ参考にしてください。
東大TV
OCWの他に、もうひとつ「東大TV」というWebサイトがあります。
東大TV:https://tv.he.u-tokyo.ac.jp/
東大TVでは、正規講義に当たらない、オープンキャンパス・高校生向けに実施されている「高校生と大学生のための金曜特別講座」・ワークショップ・シンポジウム・特別講演・外部講師による講義などを公開しています。
著名人の講演会なども豊富にあり、正規の授業とはまた一味違う、多彩な内容です。
OCW同様、会員登録等の手続きを求めないオープンなWebサイトの形式をとっています。
一部に、東京大学の構成員(教職員・学生など)のみがアクセス可能な、学内の説明会・研修の動画などを含んでいます。
多くは、複数授業の連なりからなるコースの形式ではなく1回ごとに完結する単発の講義です。
動画の長さはまちまちで10〜30分など短いものも存在します。
また、「ぴぴりのイチ推し!」でも「だいふくちゃん通信」同様、東京大学の学生が執筆した講義の紹介ブログ記事を連載しています。
UTokyo MOOC
まずは、MOOCについて説明します。
MOOCとは、Massive Open Online Course(大規模公開オンライン講座)の略称で、インターネット上で誰でも受講できるコース(講座)の総称です。
一般的に「ムーク」と発音され、複数のコースを表して「MOOCs(ムークス)」と表記する場合もあります。
2003年にOCWが誕生した後、新たなオープンエデュケーションの形として2008〜2012年頃に仕組みが整備され、正式に発足しました。
MOOCは、様々なプラットフォームにて提供されています。
例えば、スタンフォード大学の教員によって立ち上げられたCoursera(コーセラ)や、ハーバード大学・マサチューセッツ大学が合同で立ち上げたedX(エデックス)、英国のオープン大学が立ち上げたFuture Learn、その他、Udemy、Schooなど様々なプラットフォームがあります。
これらのプラットフォームにて、大学をはじめとする様々な機関がコースを提供しており、その分野は、学術的な専門知識を得られるものから、IT・マーケティング・語学などビジネススキルに特化したものまで多岐に渡ります。
海外の有名大学や一流企業が実施する本格的な授業を受けられることが魅力の一つです。
オープンエデュケーションの理念に基づいており、インターネット環境とデバイスさえあれば誰でも学習する機会が与えられているところ、自分の興味関心に沿って自由にコンテンツを選択できるところが、OCWと共通しています。
しかし、下記のように、OCWとは異なる特徴も備えています。
- 登録制であること:プラットフォームアカウントを作成してプラットフォームにログインし、受講したいコースに登録します。
- 講座を受講するスタイルであること:OCWでは、自分で自由に(ランダムに)授業を選出・閲覧して学習します。MOOCでは、オンラインでの学習の全てが完了することを念頭に、 学習者が集中しやすい10-15分の長さの講義動画と視聴後の知識を試すクイズで構成されています。修了までの目安となる大まかなスケジュールと週ごとに学習に取り組む目安の時間が設定されています。
- オンライン学習専用に制作されていること:MOOCの動画はドキュメンタリータッチの高度な編集が施されているものが多く、対面授業を撮影して配信するタイプのオンデマンド素材とは異なる特徴を持っています。
- 自分の他にも同じ講座を受講している学習者がいること:場合によっては、同時期に受講している学習者たちとの議論・交流の場であるディスカッションフォーラムや、課題に対して講師や他の学習者からのフィードバックをもらえるピア・レビューの機能を備えており、他者とコミュニケーションを取る機会があります。
- 有償のコンテンツが存在すること:OCW同様、MOOCも教育格差是正の理念に基づいて始まっているため、基本的には無償で受講できるコースが大半ですが、一部有償提供のものが存在します。
- 修了という概念があること:一定の成績を収めて合格(修了)した場合、CourseraやedXでは、希望すると(有料で)修了証を発行してもらうことが可能です。就職活動や進学の際、他の資格試験の結果などと同様に、自身の強みとしてアピールすることは可能でしょう。
- 一部の大学では、 MOOC講座の修了証獲得を卒業単位として換算しているところがあります。
完全に単独・独自で学習するよりも、
- 他の学習者たちの存在を感じて、協力したり議論したりしながら学習したい人
- 課題への取り組みや成績評価を受けることを通じて、知識の定着を確認したい人
- 修了証を取得するなど、学習の達成を形に残したい人
は、MOOCのコースを受講することを検討すると良いのではないでしょうか。
上記で紹介した主要なプラットフォームのほとんどは、アメリカ・イギリス・オーストラリアなど英語圏の国の私企業が事業として展開しているので、英語がメインとなります(多言語字幕がつく講座もあります)。
「英語での受講や議論への参加はハードルが高いなぁ」と感じる方は、まず、日本の大学や機関のみがコースを提供するプラットフォームであるJMOOC(ジェイムーク)を検討してみてください!
さて、東京大学もMOOCにコースを提供しています。
東京大学は、日本初の試みとして2013年に開講し、現在までにCouseraとedXのという米国発のプラットフォーム上に、27の講座を提供しています。
UTokyo MOOC:https://mooc.he.u-tokyo.ac.jp/ja
建築・宇宙・日本文学・コンピューターグラフィックなど様々な分野で、それぞれの第一線の先生方による講義が提供されています。
オンライン学習専用に高度に編集された質の高い動画・資料が掲載されています。
ぜひ、ご活用ください。
それぞれのサービスの活用方法
より詳細な閲覧方法・活用の方法については、このサイトの別のコラム「オンライン教育コンテンツってどうやって利用するの?」で紹介します!
ここまでお読みくださり、ありがとうございました!
〈執筆協力:中條 麟太郎・竹村 直也(学生サポーター)〉